事業者には安全配慮義務が、従業員には自己保健義務が法律上義務化されています。すなわち、事業者は従業員の安全を確保しなければならず、従業員は自らの健康を維持しなければならないということです。その観点から健康診断についてみれば、事業者には実施義務があり、従業員には受診義務があることになります。
健康診断の結果に看過できない異常があれば、事業主は従業員に保健指導を受ける機会を与え、従業員は保健指導を受けることあるいは精密検査などを受けることによって、それぞれの立場で従業員あるいは自身の健康的な就業に貢献しなければならないということになります。
産業医は、健康診断の結果あるいは主治医の意見を参考にして、当該従業員の就業上の区分(措置)を判断しなければなりません。その結論は、一般的には「通常勤務」、「就業制限」、そして「要休業」の三段階で判断されます。その結果は事業者に伝えられ、事業者はその意見を聴取して、当該従業員の生命や身体の安全を確保するべく就業上の措置を決定しなければなりません。
就業上の措置の決定や実施については、当該従業員、上司、人事労務関係者、衛生管理者、産業医がワンチームとなってことに当たらなければなりません。具体的には、主治医や産業医の意見を参考にして、措置の内容を検討し、それを実施をした後措置の効果について評価をして、当初の計画の見直しへ戻ってPDCAサイクルを回すごとく試行錯誤を繰り返しながら、常により良い結果を希求できるシステムを構築していきます。
ここで注意していただきたいことが一つあります。就業上の措置を実施してゆく中で最優先に尊重されなければならないのは、当該従業員の意向であります。当該従業員の意向に反した拙速な通常勤務への復帰や過度な就業制限は、当該従業員あるいは周囲の従業員のモチベーションに悪影響を与えることにもなりかねないことに留意してください。そういった不都合を回避するためには、関係者間の情報の共有を確保・維持し続けることが最重要であります。
健康を害した従業員に対する就業上の措置について、事業所内におけるルールが一旦確立されれば、次なる就業上の措置事例についても、その事例性に着目して基本的には同様のルールに従ってことにあたれば、うまく対処できるものと考えられます。健康診断は事後措置こそが大切で、事後措置を効果的にすすめることは、事業主の安全配慮義務と従業員の自己保健義務を背景にした双方の義務であります。